家族信託での認知症対策・相続対策について
近年、家族信託(民事信託)のお問い合せが増えてきました。テレビなどでも特集されたせいか家族信託がだんだんと浸透してきていることを肌で感じています。そして、そのお問い合わせのほとんどが認知症対策です。
認知症になってしまうと、どのような問題が起きてしまうのでしょうか?
認知症になり判断能力がなくなると、法律行為ができなくなってしまいます。法律行為の主なものが契約です。契約ができないということは売買をすることができなくなります。自分の不動産を売ることができません。
もし認知症により判断能力がなくなってしまい施設に入りたいとします。そのときに自宅不動産を売却しなければ施設に入るお金を用意できない場合、自宅不動産を売却しなければなりません。しかし、認知症により判断能力がなくなると自宅不動産の売買契約ができません。これは本当にできません。判断能力がない者がした売買契約は無効であり、もしそれを偽って売買契約した場合、後に発覚したら大変なことになります。ここでは長くなるので詳細は記載しませんが、そのような危険な不動産売買は、仲介する不動産業者や名義変更をおこなう司法書士が必ず阻止します。すると、施設に入りたくてもお金が用意できないので入ることができません。これは一大事です。
また、認知症になり判断能力がなくなると銀行口座が凍結されてしまいます。銀行口座が凍結されると生活費が引き出せません。お子さんなど親族に金銭的に余裕のある方がいらっしゃればいいのですが、そうでないと生死にかかわる大変な事態に陥ってしまいます。
実際の家族信託のお問い合わせのほとんどは上記2点を心配してのことです。
そこで、これらの予防として家族信託が有効です。
高齢の父が子に財産管理を任せるのです。管理を任せる者を委託者といいます。管理を任される者を受託者といいます。委託者である父と受託者である子で家族信託の契約を結びます。どの財産の管理を任せるのか、どのような権限を与えておくかを決めておきます。
その他、振り込め詐欺などの防止のためというのもあります。
家族信託で子供に財産管理を任せれば、託した金銭の銀行口座から親が振り込みをおこなうことはできません。したがって、被害を最小限に食い止めることができます。
家族信託は相続対策としても使用できます。
財産管理を任せた親が亡くなったとき、管理を任せた財産(信託財産)の承継先を決めておくことができます。すなわち、自分の財産を誰に相続させるか決めておくという遺言の代わりにもなるということです。
最後に注意点です。
家族信託のお問い合わせが増えてきましたが、ご両親が既に認知症になられてしまってからのことも多いです。実際に問題が顕在化したからでしょう。
家族信託は契約の一種です。認知症で判断能力がなくなってしまうと契約ができないため家族信託も使用できません。認知症で判断能力がなくなる前に家族信託に取り組まなければなりません。ですので、そうなる前にご相談ください。
ただ、認知症であるからといって必ず家族信託ができないわけではありません。家族信託の契約が結べるか否かは、判断能力があるかどうかです。軽度の認知症であれば判断能力は失っていないということはありえます。既に認知症なので家族信託はできないとあきらめないでください。当事務所でも、お子さんからのお問い合せ段階のおはなしでは無理だろうと感じた事案でも実際にご両親にお会いしたところ判断能力は失っておらず家族信託契約ができたことがあります。認知症でもまずは専門家にご相談ください。
当事務所では家族信託に積極的に取り組んでいます。家族信託に関連してご希望やお悩みがありましたら、お気軽にご相談下さい。