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家族信託は「終わらせ方」から考えるのが成功の鍵
ご家族の将来を想い、認知症対策や円滑な資産承継の手段として「家族信託」を検討される方が増えています。しかし、ご相談をお受けしていると、多くの方が「どうやって信託を始めるか」「どんな財産を信託するか」という“入口”にばかり注目されているように感じます。
もちろん、信託の開始に関する設計は非常に重要です。しかし、司法書士として数多くのご家族の悩みをお聞きしてきた経験から断言できるのは、本当に重要なのは「この信託を、いつ、どのように終わらせるか」という“出口”を最初に設計しておくことだということです。
「とりあえず始めて、状況が変わったらその時に考えよう」という安易な考えは、将来、かえってご家族を困らせる原因になりかねません。例えば、信託の終わらせ方が曖昧だったために、想定外のタイミングで信託が終了してしまったり、逆に終わらせたいのに終わらせられず、財産が動かせなくなってしまったりするケースも実際にあります。
家族信託は、一度設定すると簡単には変更できない、長期にわたる契約です。だからこそ、契約書にサインをする前に、信託の終了時期や終了後の財産の帰属先を明確に定めておく必要があります。この記事では、後悔しない家族信託を実現するために不可欠な「終わらせ方」の全知識を、専門家の視点から分かりやすく解説していきます。
家族信託が終了する全パターンを理解する
家族信託はどのような場合に終了するのでしょうか。そのパターンは、大きく分けて「自動的に終わる場合」と「意図的に終わらせる場合」の2つに分類できます。まずはこの全体像を把握することが、出口戦略を考える第一歩となります。
パターン1:自動的に信託が終わる場合(法定・契約事由)
当事者の意思とは関係なく、法律の定めや契約の内容によって自動的に信託が終了するケースです。これには、信託法という法律で定められた事由と、契約書で独自に定める事由があります。
信託法で定められた主な終了事由(法定終了事由)
- 信託の目的を達成した、または達成できなくなった場合
- 受託者が受益権の全部を固有財産で有する状態(=実質的に自分の財産を自分で信託している状態)が1年間継続した場合
- 受託者が欠けた場合で、新受託者が就任しない状態が1年間継続した場合
- 信託の終了を命じる裁判があった場合 など
信託契約で任意に定める主な終了事由
- 受益者(多くは親)が死亡したとき
- 信託契約で定めた期間(例:〇年〇月〇日)が満了したとき
- 信託の目的(例:孫の大学卒業)が達成されたとき
実務上、最も多く定められるのは「受益者の死亡」です。例えば、「親の認知症に備えて財産管理を行う」という目的の信託であれば、その親(受益者)が亡くなった時点で信託の目的は達成されるため、終了事由とするのが自然です。このように、信託の目的に応じて最適な終了事由を契約書に明記しておくことが極めて重要になります。
(参考:信託法)
パターン2:意図的に信託を終わらせる場合(合意解除)
信託の目的が達成される前であっても、ご家族の状況変化などによって「信託を途中でやめたい」と考えるケースもあるでしょう。そのような場合に、当事者の合意によって信託を終了させることができます。
信託法第164条では、原則として「委託者(財産を託した人)と受益者(利益を受ける人)の合意」があれば、いつでも信託を終了できると定められています。
ただし、ここで一つ注意点があります。実務では、将来のトラブルを防ぐために、信託契約書に「信託を合意解除するには、委託者と受益者に加え、受託者(財産を管理する人)の同意も必要とする」という条項を加えることが一般的です。受託者に不測の損害が及ぶことを防ぐためです。
また、この合意解除には大きなリスクも潜んでいます。例えば、委託者であり受益者でもある親が認知症になってしまった場合、もはや有効な意思表示(=合意)ができなくなるため、家族が「もう信託をやめたい」と思っても、合意による解除ができなくなってしまうのです。こうした事態を避けるためにも、最初の契約設計が非常に重要となります。
(参考:信託法)
【ケース別】当事者の死亡で家族信託はどうなる?
家族信託を検討する上で、最も多くご質問をいただくのが「もし、信託に関わる家族の誰かが亡くなったらどうなるのか?」という点です。委託者、受託者、受益者、それぞれの立場で亡くなった後の手続きは異なります。ここでは、ケース別に信託契約への影響を詳しく見ていきましょう。

委託者(財産を託した人)が死亡した場合
結論から言うと、委託者が死亡しても、信託は原則として終了しません。委託者の死亡は、法律上の終了事由ではないからです。
ただし、信託契約書で「委託者の死亡」を信託の終了事由として定めていた場合は、契約に従い信託は終了し、後述する清算手続きへと進みます。
一方、終了事由と定めていなかった場合、信託はそのまま継続します。このとき、委託者が持っていた「受託者を監督する権利」などの地位は、原則その委託者の相続人に引き継がれます。誰がその地位を引き継ぐのかを契約書で明確に指定しておくことで、将来の混乱を防ぐことができます。これは、税務上の特例を受ける上でも重要なポイントとなる場合があります。
受託者(財産を託された人)が死亡した場合
「受託者 死亡 終了」というキーワードで検索される方も多いですが、受託者の死亡も、原則として信託の終了事由ではありません。ここで絶対に誤解してはならないのは、信託された財産は受託者個人の財産ではないため、受託者の相続財産には含まれないという点です。
受託者が亡くなった場合、信託をどう継続させるかが問題となります。ここで重要になるのが、信託契約書で「第二受託者(次の受託者)」を定めていたかどうかです。
- 第二受託者を定めていた場合:
スムーズに第二受託者が任務を引き継ぎ、信託は滞りなく継続されます。 - 第二受託者を定めていなかった場合:
委託者と受益者の合意によって、新しい受託者を選任する必要があります。しかし、もし委託者や受益者が認知症などで判断能力を失っていた場合、選任ができなくなってしまいます。委託者と受益者の合意によって決められない場合は、裁判所に選任してもらいます。
新しい受託者が就任しないまま1年間が経過すると、信託は法律の規定により強制的に終了してしまいます。こうしたリスクを避けるためにも、信託契約を結ぶ際には、万が一の事態を想定して第二受託者を定めておくことが非常に重要です。
受益者(利益を受ける人)が死亡した場合
受益者の死亡は、信託の終了に直結することが多いケースです。日本の家族信託では「委託者=受益者」となることが大半であり、その目的は本人の生活支援や財産管理です。そのため、受益者が亡くなった時点で信託の目的は達成されたとみなし、信託の終了事由とするのが最も一般的です。
しかし、例えば障害のある子の生活を生涯にわたって支えるためなど、受益者が亡くなった後も信託を継続させたいケースもあります。このような設計(受益者連続型信託)も可能であり、遺言書では実現できない柔軟な資産承継が可能になるのが家族信託の大きなメリットです。
受益者の死亡によって信託が終了した場合、信託財産は清算手続きを経て、契約書で予め定められた「帰属権利者(財産を最終的に受け取る人)」に引き継がれます。この「誰に財産を渡すか」という指定が、信託における事実上の遺言機能となるのです。
信託終了後に必要な手続きと注意点
信託契約が無事に終了しても、それで全てが完了するわけではありません。信託された財産を最終的に受け取るべき人へ引き渡すための清算手続きが必要です。この一連の手続きを「遺産整理」と似た清算手続きと呼びます。ここでは、その流れを3つのステップに分けて解説します。
ステップ1:信託財産の清算手続き
信託が終了すると、まず清算手続きに入ります。この清算を行うのは「清算受託者」と呼ばれ、通常は元の受託者がそのまま就任します。清算受託者は、主に以下の業務を行います。
- 信託財産の確定:信託されていた預貯金、不動産などの全財産を正確に把握します。
- 債務の支払い:信託財産の中から、未払いの医療費や税金、信託に関する費用などを支払います。
- 残余財産の確定:全ての支払いを終えた後に、最終的に残った財産(残余財産)を確定させます。
この清算手続きが完了してはじめて、次のステップである財産の引き渡しに進むことができます。この過程で正確な財産調査が求められます。
ステップ2:残余財産の引き渡しと名義変更
清算手続き後に残った財産は、信託契約書で定められた「帰属権利者」へ引き渡されます。
預貯金であれば、帰属権利者の銀行口座へ送金することで引き渡しは完了します。しかし、信託財産に不動産が含まれていた場合は、法務局での登記手続きが必須となります。
具体的には、
- 所有権移転登記:不動産の名義を「受託者」から「帰属権利者」へ変更する登記
- 信託登記の抹消登記:その不動産が信託財産であることを示す登記を抹消する手続き
この2つの登記をセットで行う必要があります。この登記手続きを怠ると、帰属権利者はその不動産を売却したり、担保に入れたりすることができなくなってしまいます。不動産を含む信託の終了手続きは、司法書士のような専門家のサポートが不可欠な領域です。

ステップ3:税務申告(相続税・贈与税)
信託終了時には、税金の問題にも注意が必要です。誰が、どのような理由で財産を受け取ったかによって、かかる税金の種類が異なります。
- 相続税の対象となるケース:
信託が終了した原因が「受益者の死亡」である場合、帰属権利者は故人から遺贈により財産を取得したものとみなされ、相続税の課税対象となります。 - 贈与税の対象となるケース:
合意解除など、「死亡以外の理由」で信託が終了し、元の受益者とは異なる人物が帰属権利者として財産を受け取った場合、それは贈与とみなされ、贈与税の課税対象となります。この税負担は生前贈与と同じ考え方です。
なお、信託が終了し、元の受益者自身が帰属権利者として財産を取り戻す場合には、新たな課税は発生しません。税務の判断は非常に複雑であり、個別の状況によって大きく異なるため、必ず税理士などの専門家と連携して対応することが重要です。
まとめ:後悔しない家族信託は出口の設計から
この記事では、家族信託の「終わらせ方」に焦点を当てて解説してきました。最後に、最も重要なポイントを改めてお伝えします。
後悔しない家族信託を実現するためには、契約を始める段階で、明確な「出口(=終了事由)」と「出口の先(=残余財産の帰属先)」を設計しておくことが何よりも重要です。
家族信託は、家族の希望に沿った財産管理や資産承継を実現するための有効な選択肢の一つです。しかし、その設計はオーダーメイドであり、一度スタートすると簡単に軌道修正することはできません。将来起こりうる様々な可能性を想定し、法務・税務の両面から最適なプランを練り上げる必要があります。
「自分たちの場合は、どんな終わらせ方がベストなのだろうか」「契約書を作る上で、どんな点に注意すればいいのだろうか」といった疑問や不安をお持ちでしたら、ぜひ一度、私たち専門家にご相談ください。名古屋高畑駅前司法書士事務所では、皆様のご家族に寄り添い、入口から出口まで見据えた、安心できる家族信託の設計をお手伝いいたします。まずは無料相談からお気軽にお問い合わせいただければ幸いです。
