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信託できる財産の基本原則とは?
「自分の持っている財産は、信託に使えるのだろうか?」
家族信託などを検討される際、多くの方が最初に抱く疑問ではないでしょうか。実は、信託できる財産には、法律で定められた明確な基本原則が存在します。この原則を理解することで、信託を検討する際の基本的な判断がしやすくなります。
信託法では、信託財産について「受託者に属する財産であって、信託により管理又は処分をすべき一切の財産」と定義されています。この定義を踏まえると、信託財産として扱うための性質を整理することができます。ポイントは、大きく分けて2つです。
- 金銭に見積もることができる財産であること
- 委託者の固有財産から分離して管理できること
まず、信託の対象となるのは「財産的価値」があるものです。つまり、客観的にお金の価値に換算できるものでなければなりません。愛情や思い出といった精神的な価値は、残念ながら信託の対象にはなりません。
次に、信託された財産は、託した人(委託者)や託された人(受託者)がもともと持っている財産とはっきりと区別して管理されなければなりません。これを「分別管理義務」と呼び、信託制度において重要なルールです。このルールがあるからこそ、万が一受託者が破産したとしても、信託財産は差し押さえの対象から守られるのです(倒産隔離機能)。
この2つの原則を踏まえると、後ほどご紹介する具体的な財産のリストを整理しやすくなります。信託は、相続の対象となる財産とはまた異なる視点での整理が必要となります。
参照:信託法の条文
【一覧】信託できる財産の具体例
それでは、基本原則を踏まえて、具体的にどのような財産が信託できるのかを見ていきましょう。ご自身の状況と照らし合わせながらご確認ください。信託できる財産は多岐にわたり、適切に組み合わせることで、より効果的な資産管理や承継が可能になります。もし、ご自身の財産がどこに含まれるか不明な場合は、財産調査を通じて明確にすることも重要です。

金銭・金銭債権
最も代表的な信託財産が「金銭」です。現金そのものを信託することができます。また、特定の相手に対してお金の支払いを請求できる権利、すなわち「金銭債権」(例えば、貸付金など)も信託の対象となります。
現金を信託する際に実務上、極めて重要になるのが「信託口口座」の開設です。これは、受託者が管理する信託財産である金銭を、受託者自身の預金とは明確に分けて管理するための専用口座です。この口座で管理することにより、先述の「分別管理義務」を遵守し、信託財産の独立性を保つことができます。この点が、後述する「預金債権」の信託が難しい理由と密接に関わってきます。
不動産(土地・建物・借地権など)
ご自宅の土地・建物や、アパート・マンションなどの収益物件といった「不動産」も、信託の代表的な対象財産です。所有権そのものだけでなく、建物を所有するために土地を借りる権利である「借地権」や、マンションの一室の所有権である「区分所有権」なども信託することが可能です。
不動産を信託する大きなメリットの一つに、認知症などによる「資産凍結」を回避できる点が挙げられます。例えば、親が元気なうちに子を受託者として不動産を信託しておけば、万が一親が認知症になって判断能力を失った後でも、子が受託者としてその不動産を売却し、親の介護費用や施設入居費に充てるといった柔軟な対応が可能になります。
ただし、不動産を信託した場合は、その旨を公示するために必ず法務局で「信託登記」を行う必要があります。この登記をすることで、第三者に対して「この不動産は信託財産である」と主張できるようになります。これは相続登記と同様に、権利関係を明確にするための重要な手続きです。
有価証券(株式など)
株式や国債、投資信託などの「有価証券」も信託財産にすることができます。特に中小企業のオーナー経営者にとって重要なのが、「非上場株式(自社株)」を信託できるという点です。
事業承継対策として家族信託を活用する際に、後継者を受託者として自社株を信託するケースが増えています。これにより、議決権の行使を受託者である後継者に託しつつ、配当などの収益は受益者である現経営者が受け取るといった設計が可能です。これにより、経営の安定化を図りながら、段階的な事業承継を進めることができます。
一方で、証券取引所で売買される「上場株式」については注意が必要です。理論上は信託可能ですが、証券会社の社内規定などにより信託に対応していないケースが多く、実務上は手続きが難しい場合があります。こうした理論と実務のギャップを知っておくことも大切です。相続発生後の株式の名義変更とは異なる手続きが必要となります。
動産・知的財産権など
信託できる財産は、金銭や不動産だけではありません。自動車や貴金属、美術品といった「動産」も対象となります。また、特許権や著作権といった「知的財産権」も、財産的価値があるため信託することが可能です。
これらは一般的な相続対策では見過ごされがちですが、信託を活用することで特定の承継者に円滑に移転できるメリットがあります。例えば、クリエイターの方が亡くなった後、著作権の管理を受託者に託し、そこから生じる収益(印税など)をご家族に分配するといった活用法が考えられます。信託制度は、このような多様な財産に対応できる柔軟性を持っています。こうした特殊な財産は、遺産整理の際にも専門的な知識が求められます。
【理由も解説】信託できない・難しい財産の具体例
次に、信託の対象にできない、あるいは実務上、信託することが難しい財産について、その理由とともに解説します。「なぜできないのか?」を理解することで、信託制度への理解がより一層深まります。ここでは、「法律で明確に制限されているもの」と「理論上は可能だが実務上の対応が難しいもの」に分けて見ていきましょう。

法律で信託が制限される財産(農地・一身専属権)
まず、法律の規定によって信託が原則として認められていない財産があります。
農地(田・畑)
農地は、食料安全保障の観点から農地法という法律で厳しく保護されています。農地の所有権を移転するには、原則として農業委員会の許可が必要ですが、信託の引受けによる権利取得については、農地法上、原則として許可できないものとされています。そのため、農地は原則として信託することができません。どうしても農地を管理・承継させたい場合は、信託ではなく遺言や生前贈与(許可が前提)といった他の方法を検討する必要があります。例外的に農地転用の許可を得て宅地などにする場合は信託も可能ですが、手続きは非常に複雑です。
一身専属権(いっしんせんぞくけん)
これは、その人個人に固有の権利で、他人への譲渡や相続が認められていない権利のことです。代表的なものに、公的年金を受け取る権利(年金受給権)や生活保護を受け取る権利(生活保護受給権)、扶養を請求する権利などがあります。これらの権利は、その人の生活を保障するために一身専属的なものとされているため、性質上、他人に管理を託す信託の対象にはなりません。
参照:農地法の条文
マイナスの財産(借金・保証債務)
借入金やローン、誰かの保証人になっているという保証債務といった「マイナスの財産」は、信託することはできません。信託はあくまで、プラスの財産を管理・承継・活用するための制度であり、債務を誰かに引き継がせるためのものではないからです。
ただし、実務上よくご相談いただくのが「住宅ローンが残っている自宅を信託したい」というケースです。この場合、信託契約とは別に、金融機関(債権者)の承諾を得て、受託者が債務を引き継ぐ「債務引受」という手続きを行う必要があります。しかし、金融機関は債務者の返済能力を審査しているため、受託者の資力によっては承諾が得られず、手続きは容易ではありません。
実務上、信託が難しい財産(預金債権など)
法律上は可能であっても、実務上の慣行や契約によって信託が非常に難しい財産もあります。その代表例が「預金債権」です。
「現金は信託できるのに、なぜ銀行預金は信託できないの?」と疑問に思われるかもしれません。これは、私たちが銀行にお金を預ける際に結ぶ預金契約に、多くの場合「譲渡禁止特約」という条項が含まれているためです。預金債権(預金を引き出す権利)を信託するということは、この権利を受託者に譲渡(移転)することを意味しますが、この特約によって権利の譲渡が制限されているのです。そのため、銀行が承諾しない限り、預金債権そのものを信託することはできません。
この問題を回避するための実務的な解決策が、先ほどご説明した「信託口口座」の活用です。具体的には、信託したい預金を一度現金として引き出し、その現金を信託財産として、新たに開設した信託口口座に入金して管理します。この方法により、実質的に預金を信託財産として分別管理することが可能となります。
判断に迷う財産はどうなる?専門家がケース別に解説
信託できるかどうかの判断が難しい、いわゆる「グレーゾーン」の財産も存在します。ここではいくつかの例を挙げ、専門家としての見解を解説します。
ペット
法律上、ペットは「動産」として扱われるため、信託財産にすることが可能です。自分が亡くなった後や、施設に入所して飼えなくなった後のペットの世話を信頼できる受託者に託し、飼育費用も一緒に信託しておくことで、ペットの将来の飼育に必要な費用や管理方法をあらかじめ定めておくことができます。ただし、誰を受託者にするか、飼育費用をいくらに設定するかなど、詳細な信託設計が重要になります。
ゴルフ会員権
ゴルフ会員権には、株式形式のものや預託金形式のものなど様々な種類があります。株式形式であれば有価証券として、預託金形式であれば金銭債権として、信託の対象にできる可能性があります。ただし、会員規約で譲渡が制限されている場合が多いため、信託を検討する際は、まずゴルフ場の規約を確認する必要があります。
生命保険契約
生命保険契約における「契約者の地位」を信託することは、実務上難しいとされています。しかし、生命保険金を受け取る権利(保険金請求権)を受益権とする「生命保険信託」という金融商品が存在します。これは、保険会社や信託銀行が提供するサービスで、自分が亡くなった後の保険金の使途(例えば、障害のある子の生活費として毎月定額を給付するなど)を細かく指定できるというメリットがあります。
信託財産を選ぶ際の3つの視点
信託できる財産・できない財産が分かったところで、次に考えるべきは「自分の財産のうち、何を信託すべきか?」という点です。すべての財産を信託する必要はありません。目的を明確にし、戦略的に財産を選ぶことが成功の鍵です。専門家の視点から、信託財産を選ぶ際の3つの基準をご紹介します。
- 資産凍結リスクが高い財産
最も優先的に検討すべきは、認知症などによって判断能力が低下した場合に「凍結」されてしまうリスクが高い財産です。代表的なのは、売却や賃貸に本人(所有者)の明確な意思確認が必要な「不動産」や、事業承継に不可欠な「自社株」です。これらを信託しておくことで、いざという時にスムーズな管理や処分が可能になります。 - 管理に専門性や手間がかかる財産
アパートや駐車場などの「収益物件」は、入居者対応や修繕など、日常的な管理に手間がかかります。将来、自分での管理が難しくなった場合に備え、信頼できる子などを受託者として管理を任せるために信託を活用するのは有効な手段です。 - 将来の生活や介護に必要な資金
将来の自分の生活費や介護費用、医療費に充てるための「現金」も、信託の重要な対象です。現金を信託口口座で管理しておくことで、万が一、自分が認知症になっても受託者がそこから必要な費用を計画的に引き出し、本人のために使うことができます。これにより、本人の判断能力低下後の資金管理について、あらかじめ対応しやすくなる場合があります。信託を設計する際には、まずご自身の財産目録を作成し、全体像を把握することから始めると良いでしょう。

信託できない財産がある場合の代替策
信託したいと考えていた財産が、法律や実務上の理由で信託できないと分かった場合でも、他の制度を検討できる場合があります。信託は万能ではありませんが、他の制度と組み合わせることで、目的を達成できる方法が残されている場合があります。
例えば、信託できない「農地」については、遺言書で特定の相続人に引き継がせる方法があります。また、ご自身が元気なうちに「任意後見契約」を結んでおけば、判断能力が低下した際に後見人が財産管理を行うことも可能です。
「債務」については、信託で引き継がせることはできませんが、金融機関(債権者)の承諾を得て、受託者が債務を引き継ぐ「債務引受」という手続きをおこなえば、実質的に引き継がせることができます。
このように、信託という一つの制度に固執するのではなく、遺言、後見、民法上の手続きなど、様々な選択肢の中からご自身の状況や目的に最も適した方法を組み合わせることが重要です。私たち司法書士は、信託だけでなく、これらの制度全体を踏まえて、ご状況に応じた解決策をご提案します。
まとめ|信託財産の選定は専門家への相談が不可欠
今回は、信託できる財産とできない財産について、その基本原則から具体的なリスト、そして理由まで詳しく解説しました。
- 信託できる財産には「金銭的価値」と「分別管理可能性」という原則があること
- 金銭や不動産、株式などが代表的な信託財産である一方、農地や債務、預金債権などは信託が難しいこと
- 目的を持って戦略的に信託財産を選ぶことが重要であること
- 信託できない財産があっても、遺言や後見制度など他の方法で目的を達成できる場合があること
これらのポイントをご理解いただけたかと思います。
しかし、実際にどの財産を信託に含めるか、どのような契約内容にするかという判断には、法律だけでなく税務の知識も不可欠であり、非常に複雑な検討が必要です。ご自身の判断だけで進めてしまうと、思わぬ税金が発生したり、将来のトラブルの原因になったりするリスクも少なくありません。
大切な財産を、ご自身とご家族の将来に合った形で活かすためには、司法書士などの専門家に相談することも有効です。当事務所では、お客様一人ひとりのご状況や想いを丁寧にお伺いし、ご状況に応じた信託設計のお手伝いをさせていただきます。相談は無料ですので、どうぞお気軽に無料相談をご利用ください。ご状況に合った解決策を一緒に検討しましょう。
