生前対策をおすすめするケース

「まだ先の話」と思っていませんか?生前対策の必要性セルフチェック

「うちは財産が多いわけではないから、相続で揉めるなんて関係ない」「まだ元気だから、対策は先でいい」――。多くの方がそうお考えかもしれません。しかし、司法書士として数多くのご相談をお受けする中で、相続トラブルは資産の多い少ないにかかわらず、どのようなご家庭にも起こりうるという現実を目の当たりにしてきました。

むしろ、遺産がご自宅の不動産とわずかな預貯金といったケースの方が、分割が難しく、深刻な対立に発展しやすいのです。また、もう一つの大きなリスクが「認知症による資産凍結」です。ご本人の判断能力が低下すると、たとえご家族であっても預金を引き出したり、不動産を売却したりすることができなくなり、介護費用や生活費の支払いに窮する事態も珍しくありません。

ご自身の状況を客観的に把握するために、まずは以下の10項目をセルフチェックしてみてください。

生前対策 必要性セルフチェックリスト

  1. 財産のほとんどが、現在住んでいる家や土地である。
  2. 相続人になるであろう子どもたちの仲があまり良くない、または疎遠である。
  3. 再婚しており、前の配偶者との間に子どもがいる。
  4. 夫婦二人暮らしで、子どもはいない。
  5. 家業や事業を特定の子どもに継がせたいと考えている。
  6. 相続人の中に行方不明の人や、連絡が取りづらい人がいる。
  7. 法律上の相続人ではないが、財産を遺したい人がいる(内縁の妻、子の配偶者など)。
  8. 自分や配偶者が認知症になった場合の財産管理が心配だ。
  9. 障害のある子や、将来の生活が心配な子がいる。
  10. 先祖から受け継いだ土地など、特定の財産を後世に残したい。

3つ以上当てはまった方は、要注意です。
これらの項目は、将来の相続トラブルや財産管理の問題につながる可能性がある項目と言えます。この先で、なぜこれらがリスクとなるのか、そしてどのような対策が有効なのかを具体的に解説していきます。

【ケース別】司法書士が解説!生前対策を強くおすすめする10の状況

ここからは、特に生前対策の必要性が高い10のケースについて、具体的なリスクと最適な解決策を司法書士の視点から詳しく解説します。ご自身の状況と照らし合わせながら、最適な対策を見つけるための一助としてください。適切な遺言書の作成や家族信託の活用など、打てる手は数多く存在します。

ケース1:財産のほとんどが自宅不動産である

ご自宅が主な財産である場合、相続時に深刻な問題を引き起こす典型的なケースです。預貯金のように簡単に分割できないため、相続人が複数いると「誰が住むのか」「どうやって分けるのか」で意見が対立しがちです。

対策をしない場合に想定されるリスク:
相続人の一人が住み続けることを希望しても、他の相続人は法定相続分に相当する現金を要求するかもしれません。その代償金を支払えなければ、思い出の詰まった家を売却せざるを得ない状況に追い込まれることもあります。また、不動産の評価額を巡って対立が生まれ、遺産分割協議が全く進まないという事態も頻繁に起こります。

最適な対策の組み合わせ:

  • 遺言書:「自宅は配偶者に、預貯金は長男に」というように、誰にどの財産を相続させるかを明確に指定しておくことで、分割方法を巡る争いを未然に防ぎます。
  • 家族信託:生前に自宅の管理・承継方法を決めておくことができます。例えば、ご自身が亡くなった後は配偶者が住み続け、配偶者も亡くなったら売却して子どもたちで分ける、といった柔軟な設計が可能です。

不動産をどのように承継させたいかによって、最適な方法は異なります。

ケース2:相続人同士の仲が良くない、または疎遠である

普段は問題がなくても、相続をきっかけに長年の不満や嫉妬が噴出し、関係が悪化することは少なくありません。特に、相続人同士が疎遠で、お互いの生活状況を知らない場合は、話し合いそのものが困難になります。

対策をしない場合に想定されるリスク:
遺産分割協議は相続人全員の合意が必要です。一人でも協力が得られない、あるいは連絡すら取れない場合、手続きは完全に停滞します。感情的な対立が深まると、弁護士を立てての調停や審判に発展し、解決までに数年を要することも。その間の精神的・時間的・経済的な負担は計り知れません。

最適な対策の組み合わせ:

  • 公正証書遺言:相続人間の話し合いを不要にし、ご自身の意思通りに財産を分けることができる最も強力な対策です。公証役場で作成するため、自筆証書遺言に比べて形式不備で無効になるリスクを抑えやすい方法です。
  • 遺言執行者の指定:遺言の内容を実現するための手続き(預貯金の解約や不動産の名義変更など)を行う遺言執行者をあらかじめ指定しておくことで、相続手続きがスムーズに進みます。専門家を指定すれば、相続人の負担を大幅に軽減できます。
司法書士に生前対策について相談している夫婦の様子

ケース3:再婚していて、前配偶者との間に子がいる

現在の配偶者やその子と、前妻(夫)の子は、どちらも法律上の相続人です。普段は交流がなくても、相続の場では顔を合わせることになり、利害が対立しやすいため、極めて慎重な対策が求められます。

対策をしない場合に想定されるリスク:
現在の配偶者が住み慣れた自宅に住み続けたいと願っても、前配偶者の子から法定相続分を主張されれば、家を売却して代償金を支払わなければならない可能性があります。また、現在の配偶者が亡くなった後(二次相続)には、財産は配偶者側の親族に相続され、ご自身の血を引く前配偶者の子には渡りません。

最適な対策の組み合わせ:

  • 遺言書:「自宅は現在の妻に」「預貯金は前妻の子と現在の妻の子に均等に」など、財産の分け方を明確に指定し、トラブルの原因となりやすい点をあらかじめ整理しておくことが重要です。
  • 家族信託:二次相続まで見据えた対策が可能です。例えば、「自宅の所有権は長男に渡すが、妻が亡くなるまでは無償で住み続けられる権利(居住権)を保障する」といった複雑な設定ができます。これにより、配偶者の生活を守りつつ、財産の承継先も指定できます。なお、法改正により配偶者居住権という制度も創設されています。

ケース4:子どもがいない夫婦である

「子どもがいないから、自分の財産はすべて配偶者が相続するはず」と誤解されている方が非常に多いケースです。これは大きな間違いで、生前対策を怠ると、残された配偶者が大変な苦労をすることになります。

対策をしない場合に想定されるリスク:
ご自身の親が存命であれば親と配偶者が、親がすでに亡くなっている場合はご自身の兄弟姉妹(甥・姪)と配偶者が共同で相続人となります。つまり、残された配偶者は、これまであまり付き合いのなかった義理の兄弟姉妹と、遺産の分け方について話し合わなければならないのです。協議がまとまらなければ、自宅の名義変更も預金の解約もできません。

最適な対策の組み合わせ:

  • 遺言書:「全財産を妻(夫)に相続させる」という内容の遺言書を作成しておくことで、配偶者以外の親族との遺産分割協議を避けやすくなります。配偶者に財産を遺したい場合は、遺言書の作成を検討することが重要です。
  • 家族信託・遺言書の工夫:ご自身の死後、配偶者も亡くなった場合、財産は配偶者側の親族に渡ります。もし、最終的にはご自身の血族(兄弟姉妹など)に財産を戻したいとお考えなら、その旨を信託契約で指定しておくことも可能です。遺言書では二次相続の指定はできないため別途配偶者に遺言を作成してもらう必要があります。
子どもがいない夫婦の相続パターンを図解したインフォグラフィック。遺言がない場合、配偶者だけでなく被相続人の親や兄弟姉妹も相続人になることを示している。

ケース5:特定の相続人に財産を多く渡したい(事業承継など)

「家業を継いでくれる長男に自社株や事業用不動産をすべて渡したい」「介護で世話になった長女に多めに財産を遺してあげたい」といったお気持ちは当然のものです。しかし、その想いが他の相続人との対立につながることがあります。

対策をしない場合に想定されるリスク:
特定の相続人への配分が偏ると、他の相続人から「遺留分」を主張される可能性があります。遺留分とは、兄弟姉妹を除く法定相続人に保障された最低限の取り分です。これを侵害する内容の遺言は、遺留分侵害額請求という金銭トラブルに発展し、事業の継続に必要な資金を支払わなければならなくなるなど、かえって事態を複雑化させます。

最適な対策の組み合わせ:

  • 遺留分に配慮した遺言書:他の相続人の遺留分を侵害しない範囲で、財産の分け方を指定することが基本です。
  • 生命保険の活用:受取人を指定した生命保険金は遺産分割の対象外となり、遺留分の計算にも原則として含まれません。ただし、保険金額が相続財産全体と比べて大きいなど、相続人間に著しい不公平が生じる場合には、例外的に考慮される可能性があります。これを利用して、事業を継がない他の子どもたちに代償金として現金を準備しておく方法が有効です。
  • 家族信託:自社株について、経営権に関わる「議決権」は後継者である長男に、配当などを受け取る「財産権」は他の相続人に、といった形で権利を分離させ、円滑な事業承継と公平な財産分配を両立させることも可能です。

ケース6:相続人の中に行方不明者や判断能力に不安がある人がいる

遺産分割協議は、相続人全員の参加と合意が必要です。不動産の名義変更や預貯金の解約などの手続きでは、遺産分割協議書への実印での押印や印鑑証明書の提出が求められるのが一般的です。一人でも連絡が取れない、あるいは認知症などで意思表示ができない人がいると、すべての手続きが止まってしまいます。

対策をしない場合に想定されるリスク:
相続人に行方不明者がいる場合、家庭裁判所に「不在者の財産管理人」の選任を申し立てる必要があります。また、判断能力が不十分な人がいる場合は「成年後見人」を選任しなければ、遺産分割協議書を作成できません。いずれも手続きには数ヶ月から1年以上の期間と数十万円の費用がかかり、他の相続人に大きな負担を強いることになります。

最適な対策の組み合わせ:

  • 遺言書:遺言書で財産の分け方を指定しておけば、遺産分割協議そのものが不要になります。これにより、行方不明者や判断能力に不安がある相続人がいても、他の相続人は遺言の内容に従ってスムーズに手続きを進めることができます。

ケース7:相続人以外の人(内縁の妻、子の配偶者など)に財産を遺したい

長年連れ添った内縁のパートナーや、実の子以上に介護で尽くしてくれたお嫁さんなど、法律上の相続人ではないけれど財産を遺したい、というケースは少なくありません。

対策をしない場合に想定されるリスク:
どれだけ深く感謝していても、何もしなければ、これらの人に財産が渡ることは一切ありません。すべての財産は、たとえ疎遠であっても法定相続人が相続することになります。感謝の気持ちは、法的な手続きを伴わなければ実現できないのです。

最適な対策の組み合わせ:

  • 遺言書(遺贈):相続人以外の人に遺言によって財産を遺すことを「遺贈」といいます。財産を確実に渡したい場合は、遺言書を作成し、誰に、どの財産を、どれだけ遺すのかを明確に記しておくことが重要です。なお、相続人以外の親族の貢献については、特別寄与料という制度も考慮される場合があります。

ケース8:認知症になった場合の財産管理に不安がある

認知症などにより判断能力が低下し、金融機関がご本人の意思確認をできない場合、預金の引き出しなどの取引が制限されることがあります。これは、たとえ配偶者や子どもであっても、勝手に預金を引き出したり、不動産を売却したりできなくなることを意味します。

対策をしない場合に想定されるリスク:
介護施設の入居一時金や月々の介護費用が必要になっても、本人の口座からお金を下ろせない。実家を売却して費用に充てようにも、売却契約ができない。このような「資産凍結」状態に陥り、家族が経済的・精神的に追い詰められるケースが後を絶ちません。

最適な対策の組み合わせ:

  • 家族信託:判断能力がしっかりしているうちに、信頼できる家族(子など)に財産の管理権限を託す契約です。「父の生活・介護に必要な資金は、長男が父の信託口座から支払う」といった内容を決めておくことで、万が一認知症になった場合でも、信託契約の対象となる財産については、計画的な管理を続けやすくなります。
  • 任意後見制度:こちらも元気なうちに、将来判断能力が低下した際に備えて、財産管理や身上監護を任せる「任意後見人」を自分で選んでおく制度です。家族信託が財産管理に特化しているのに対し、任意後見は役所の手続きや介護サービスの契約など、より広範な身上監護もカバーします。両者を組み合わせることで、より万全な対策が可能になります。

ケース9:障害のある子や将来が心配な子がいる

「自分たちがいなくなった後、この子の生活はどうなるのだろう」という親御さんの切実な悩みは、単に財産を相続させるだけでは解決しません。

対策をしない場合に想定されるリスク:
障害のある子や浪費癖のある子に多額の財産を一度に渡してしまうと、本人が適切に管理できず、生活が破綻したり、悪意のある第三者に騙し取られたりするリスクがあります。親御さんの想いとは裏腹に、かえってお子さんを不幸にしてしまう可能性があるのです。

最適な対策の組み合わせ:

  • 家族信託(福祉型信託):この問題に対する有効な選択肢の一つです。親(委託者)が、信頼できる他の子や親族(受託者)に財産を信託し、「障害のある長男のために、毎月〇万円を生活費として給付する」という契約を結びます。これにより、親亡き後も、長期にわたって安定的にお子さんの生活を支え続ける仕組みを作ることができます。

ケース10:先祖代々の土地など、特定の財産を守り続けたい

事業で使っている土地や、代々受け継いできた土地など、「この財産はできる限り売却や分割を避け、〇〇家に引き継いでいってほしい」という強い想いがある場合です。

対策をしない場合に想定されるリスク:
通常の相続では、財産は相続人の共有財産となります。相続人の一人が経済的に困窮し、自分の持分を売却してしまうかもしれません。あるいは、相続が繰り返されるうちに共有者がどんどん増えていき、最終的には誰にも活用されず、管理もされない「塩漬け不動産」になってしまうリスクがあります。

最適な対策の組み合わせ:

  • 遺言書:特定の財産を特定の相続人に引き継がせる旨を指定することは、第一歩として有効です。
  • 家族信託:より強力で長期的な対策が可能です。信託契約の中で、売却の条件や管理を担う人などのルールを定めておくことができます。これにより、一定の範囲で、ご自身の意思を将来の財産管理に反映させやすくなります。

生前対策を始める前に知っておきたい3つの注意点

ご自身の想いを実現し、円満な相続を迎えるために有効な生前対策ですが、進め方を間違えると新たなトラブルの原因になりかねません。ここでは、特に注意すべき3つのポイントを解説します。

  1. 「遺留分」を無視した遺言は新たなトラブルの種になる
    前述の通り、兄弟姉妹を除く法定相続人には、法律で保障された最低限の遺産取得分である「遺留分」があります。「全財産を長男に」といった遺言は、他の子どもたちの遺留分を侵害する可能性が高く、後に「遺留分侵害額請求」という金銭トラブルに発展するリスクをはらんでいます。遺言書を作成する際は、必ずこの遺留分に配慮した内容にすることが重要です。
  2. 生前贈与は「名義預金」とみなされると無効になる
    相続税対策として、お子さんやお孫さんの名義で預金口座を作り、毎年少しずつ送金している方もいらっしゃるかもしれません。しかし、その通帳や印鑑を贈与した側(親など)が管理している場合、それは単なる「名義預金」とみなされ、相続財産として扱われてしまいます。贈与を有効に成立させるためには、贈与契約書を作成し、口座の管理も受け取った側が実質的に行っている状態にしておく必要があります。
  3. 一度決めた対策も定期的な見直しが必要
    10年前に作成した遺言書も、その後の家族構成の変化(子の結婚、孫の誕生、相続人の死亡など)や財産状況の変動によって、現状にそぐわないものになっている可能性があります。生前対策は一度行ったら終わりではありません。法改正が行われることもありますので、数年に一度は専門家と共に内容を見直し、最適な状態を維持していくことが大切です。

これらの注意点を踏まえると、ご自身の判断だけで対策を進めることの難しさとリスクがお分かりいただけるかと思います。専門家は、こうした法的なリスクを整理し、ご家族全員にとって最善の解決策を設計するお手伝いをします。

自宅で生前対策について一人で考えを巡らせている高齢の女性

まとめ:最適な生前対策は一人ひとり違う。まずは専門家にご相談を

この記事では、生前対策が特に必要となる10のケースと、その具体的な対策、そして注意点について解説してきました。

もし、セルフチェックで一つでも当てはまる項目があったなら、それは「まだ先の話」ではなく、今向き合うべき大切な課題であるというサインかもしれません。家庭裁判所における遺産分割事件の件数は、依然として高い水準で推移しており、相続トラブルは決して他人事ではないのです。

重要なのは、「ご家族の状況、財産の内容、そして何よりもご自身の想いによって、最適な対策は全く異なるオーダーメイドのものである」ということです。インターネットの情報や書籍を参考にご自身で対策を進めることも可能ですが、法的な要件を満たしていなかったり、思わぬ税金の問題が発生したりと、かえって事態を複雑にしてしまう危険性も伴います。

私たち司法書士は、遺言書作成のサポートから、不動産が絡む複雑な相続手続き、そして認知症対策としての家族信託や任意後見まで、生前対策をトータルで設計する専門家です。

「何から始めればいいかわからない」「うちの場合はどうなんだろう」そんな漠然とした不安の段階で構いません。まずは一度、専門家の話を聞いてみませんか。当事務所では、無料相談を承っております。ご家族の未来のために、そして何よりご自身の安心のために、その第一歩を踏み出すお手伝いができれば幸いです。

参照:家庭裁判所における遺産分割事件数の統計情報

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