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家族信託は「誰のため?」で課税が変わる
「親の将来のために家族信託が良いと聞いたけれど、なんだか複雑で難しそう…」「下手に手続きして、高額な税金がかかったらどうしよう…」
ご家族の財産を守るために家族信託を検討されている方から、このような不安の声をよくお聞きします。確かに、家族信託は将来の財産管理や承継に備えるための有効な制度ですが、その仕組みは一見すると複雑に感じられるかもしれません。
しかし、ご安心ください。家族信託の核心は、実は非常にシンプルです。それは「信託した財産の利益を、誰が受け取るのか?」という一点に集約されます。
この「誰が利益を得るか」の違いによって、信託は「自益信託」と「他益信託」の2種類に分かれます。そして、このわずかな違いが、贈与税などの税金面に決定的な影響を及ぼすのです。
この記事では、家族信託の専門家である司法書士が、自益信託と他益信託の根本的な違いから、最も重要な税務上の注意点、そして具体的な活用事例までを徹底的に解説します。この記事を最後までお読みいただければ、自益信託と他益信託を検討する際の基本的な判断材料を整理しやすくなるでしょう。
自益信託と他益信託の基本的な違い
自益信託と他益信託の違いを理解するために、まずは家族信託に登場する3人の主要人物の役割を簡単に押さえておきましょう。
- 委託者(いたくしゃ):自分の財産を託す人(例:親)
- 受託者(じゅたくしゃ):財産を託され、管理・運用・処分する人(例:子)
- 受益者(じゅえきしゃ):信託された財産から生じる利益(賃料収入や預金の利息など)を受け取る人
この3者の関係性によって、信託の種類が決まります。違いは「委託者と受益者が同じ人物かどうか」、ただそれだけです。

自益信託:財産を託す人と利益を得る人が同じ
自益信託とは、「委託者」と「受益者」が同一人物である信託のことです。例えば、父(委託者)が自身の老後の財産管理を長男(受託者)に託し、その財産から生じる利益は引き続き父(受益者)が受け取る、というケースがこれにあたります。
【自益信託のポイント】
- 委託者 = 受益者
- 財産の名義は形式的に受託者(長男)に変わるが、実質的な利益は委託者(父)から動いていない。
- 利益の移動がないため、後述する贈与税はかかりません。
私たちが司法書士として受けるご相談のほとんどは、この自益信託を活用するケースです。特に、ご自身の認知症による資産凍結を防ぐための対策として、最も一般的で基本的な形だとお考えください。

他益信託:財産を託す人と利益を得る人が別人
一方、他益信託とは、「委託者」と「受益者」が異なる人物である信託を指します。例えば、夫(委託者)が、将来認知症になる可能性のある妻(受益者)の生活を守るために、長男(受託者)に財産管理を託す、といったケースです。
【他益信託のポイント】
- 委託者 ≠ 受益者
- 信託を設定した時点で、財産の利益を受け取る権利が委託者(夫)から受益者(妻)へと実質的に移転する。
- この財産価値の移転が「贈与」とみなされ、原則として受益者に贈与税が課税されます。
他益信託は、障がいのある子の将来の生活資金を確保するなど、特定の目的のために設計されることが多く、自益信託に比べるとやや特殊なケースと言えるでしょう。

最大の違いは「贈与税」- 税務上の注意点を徹底比較
自益信託と他益信託、この二つの最大の違いは、信託を設定した時点での「贈与税」の扱いです。なぜこのような違いが生まれるのでしょうか。それは、税法には「受益者課税の原則」という考え方があるからです。これは、信託財産から生じる経済的利益を実質的に受け取る人、つまり「受益者」に税金を課すというルールです。この原則を念頭に置くと、両者の税務上の違いが明確に理解できます。
自益信託:贈与税はかからないが、将来の相続税は発生
自益信託では、委託者と受益者が同一人物です。つまり、財産の名義は形式的に受託者に移りますが、経済的な利益は委託者の手元から動いていません。このように実質的な財産の移動がないため、信託を設定した時点では贈与税は課税されないのです。
しかし、ここで非常に重要な注意点があります。それは、自益信託は直接的な節税対策にはならないということです。委託者兼受益者が亡くなった際には、その方が保有していた「信託受益権」という権利が相続財産とみなされ、相続税の課税対象となります。あくまで財産の管理や承継をスムーズにするための制度であり、相続税を回避する目的で利用するものではない、と正しく理解しておくことが重要です。
他益信託:原則として受益者に贈与税が課税される
他益信託では、委託者から受益者へと財産的価値が移転するため、税法上は「みなし贈与」として扱われ、原則として受益者に贈与税が課税されます。信託する財産の価額によっては高額な税負担が発生する可能性があるため、これが実務上、最初から他益信託を組成するケースが少ない最大の理由です。
ただし、障がいを持つ方のための「特定贈与信託」など、一定の要件を満たせば非課税となる特例も存在します。これらの制度を利用する場合は、暦年贈与の基礎控除や相続時精算課税制度との兼ね合いも考慮する必要があり、極めて専門的な判断が求められます。
自益信託から他益信託へ「受益者連続信託」という選択肢
ここまでの説明で、「贈与税がかかるなら他益信託は使いにくい」と感じられたかもしれません。しかし、家族信託にはもっと柔軟な設計が可能です。それが「受益者連続信託」です。
これは、当初は「自益信託」としてスタートし、最初の受益者(委託者)が亡くなった後、あらかじめ指定しておいた次の人(例:配偶者や子)が第二受益者として受益権を引き継ぐ仕組みです。
例えば、「自分が生きている間は自分が利益を受け取り(自益信託)、自分が亡くなったら妻に受益権を引き継がせ(他益信託に変化)、妻が亡くなったら長男に引き継がせる」といった設計が可能です。この場合、受益権が移るタイミングで、贈与税ではなく相続税が課税されます。
これにより、「生前の柔軟な財産管理(自益)」と「円滑な資産承継(他益)」という二つの目的を一つの契約で両立できます。これは、一代限りの承継しか定められない遺言書では実現できない、家族信託ならではの非常に大きなメリットと言えるでしょう。
【ケース別】自益信託と他益信託どちらを選ぶべき?
理論的な違いを理解したところで、次は具体的にどのような状況でどちらの信託が適しているのか、事例をもとに見ていきましょう。ご自身の家族構成や目的に当てはめながらお読みください。
事例1:ご自身の認知症対策が目的なら「自益信託」
【状況】
Aさん(75歳)は、最近物忘れが増え、将来認知症になったときに自宅不動産や預貯金が凍結されてしまうことを心配しています。長男(45歳)は近くに住んでおり、信頼できるしっかり者です。
【最適な選択】自益信託
このケースでは、Aさんを「委託者 兼 受益者」、長男を「受託者」とする自益信託を契約するのが最も一般的です。これにより、信託設定時に贈与税がかかることなく、財産の管理権限だけを長男に移すことができます。万が一、将来Aさんの判断能力が低下しても、長男が受託者として預貯金の引き出しや介護費用の支払い、必要であれば不動産の売却までスムーズに行うことが可能になります。認知症による資産凍結対策として、実務上よく用いられる活用法です。

事例2:障がいのある子の将来のためなら「他益信託」も検討
【状況】
Bさん夫妻には、重度の知的障がいを持つ次男(20歳)がいます。夫妻は自分たちが亡くなった後、次男が生活に困らないよう、安定的に生活費を受け取れる仕組みを作っておきたいと考えています。
【最適な選択】他益信託
この「親なき後問題」への対策として、他益信託が有効な選択肢となります。例えば、Bさん(父)を「委託者」、信頼できる親族(長男など)を「受託者」、そして障がいのある次男を「受益者」とする信託契約を結びます。これにより、Bさん夫妻が亡き後も、受託者が信託財産を管理し、定期的に次男の生活費を口座に振り込むといった仕組みを構築できます。
ただし前述の通り、信託設定時には贈与税が課題となります。そのため、信託する財産の額を慎重に検討したり、「特定障害者に対する贈与税の非課税(特定贈与信託)」といった制度の活用を視野に入れる必要があります。税金のデメリットを上回るメリットがある場合に、専門家と相談しながら慎重に設計すべきケースです。
事例3:二次相続まで見据えるなら「受益者連続信託」
【状況】
Cさん(60歳)には、妻と、前妻との間に生まれた長男がいます。Cさんとしては、自分の財産はまず妻に不自由なく使ってもらい、妻が亡くなった後は、最終的に自分の血を引く長男に確実に引き継がせたいと考えています。
【最適な選択】受益者連続信託
この場合、受益者連続信託が極めて有効です。契約内容は以下のようになります。
- 委託者:Cさん
- 受託者:長男
- 第一受益者:Cさん本人(自益信託としてスタート)
- 第二受益者:Cさんの死亡後、妻が受益権を取得
- 第三受益者:妻の死亡後、長男が受益権を取得
この設計により、Cさんは信託法上の期間制限の範囲内で、自身の想いを次の承継先まで反映させることができます。もし遺言で「全財産を妻に相続させる」とだけ書いた場合、妻が亡くなった後の財産は、妻の法定相続人(Cさんの長男は含まれない)に渡ってしまいます。このように、遺言では実現しにくい複雑な資産承継に対応できる点が、受益者連続信託の特徴です。ただし、設計が複雑になるため、遺留分などにも配慮した専門家による緻密な契約書作成が不可欠となります。
税金だけじゃない!契約前に知るべき3つの注意点
自益信託か他益信託か、という選択は非常に重要ですが、それ以外にも家族信託を成功させるためには、実務上見落とされがちなポイントがあります。契約前に確認しておきたい3つの注意点をお伝えします。
注意点1:信頼できる受託者が見つからない問題
家族信託を適切に運用できるかどうかは、財産を託される「受託者」の選定と対応に大きく左右されます。受託者には、信託契約に従って財産を管理する重い責任が生じ、信託された財産の収支を記録した帳簿を作成・保管する義務も伴います。これは決して簡単な役割ではありません。
「子供たちの中で誰か一人にだけ重い負担をかけたくない」「そもそも、長期にわたる財産管理を任せられる適任者が家族内にいない」といったお悩みは、決して少なくありません。安易に受託者を選んでしまうと、財産の使い込み(横領)や、他の相続人との間で「兄さんだけ親の財産を自由にしている」といった不公平感から、深刻なトラブルに発展するリスクもあります。受託者の選定は、家族全員で納得するまで話し合い、極めて慎重に行う必要があります。
注意点2:信託できない財産や行為がある
家族信託は万能の制度ではありません。例えば、不動産や金銭、一定の有価証券などは信託財産にできますが、預貯金口座そのものは金融機関の約款上の制限により、そのまま信託財産にできないことがあります(引き出して金銭を信託します)。また、農地や年金を受け取る権利(年金受給権)などは、法律上の制限により信託することができない場合があります。
また、さらに重要な点として、受託者の権限はあくまで「財産の管理・処分」に限られるということです。受益者のために介護サービス契約を結んだり、施設への入所手続きを行うといった「身上監護」に関する行為は、受託者の権限外です。これらの行為が必要になる場合に備え、財産管理は「家族信託」、身上監護は「任意後見契約」というように、二つの制度を組み合わせて利用することが有効な場合があります。これは専門家でなければ見落としがちなポイントです。

注意点3:専門家の知見なくして適切な設計は困難
この記事で解説してきたように、家族信託は民法、信託法、そして税法といった複数な法律が複雑に絡み合う、非常に専門性の高い制度です。インターネットで検索すれば契約書の雛形なども見つかりますが、それらを安易に利用するのは大変危険です。
ご家族の状況を無視した画一的な契約書では、予期せぬ贈与税が課税されたり、いざという時に契約内容の不備で手続きが進められなかったり、最悪の場合は契約自体が無効と判断されるリスクすらあります。特に、受益者連続信託や障がいのある子のための他益信託といった高度な設計を検討する場合には、家族信託に精通した司法書士などの専門家への相談が不可欠です。ご家族一人ひとりの意向を丁寧に確認し、法務・税務の両面から事情に合った契約書を作成することが、将来のトラブルを防ぐために重要です。
料金が心配な方もいらっしゃるかもしれませんが、まずは専門家の意見を聞くことが大切です。
まとめ:家族の未来を守るため、最適な信託設計を
今回は、家族信託における「自益信託」と「他益信託」の違いについて、特に税金面を中心に解説しました。
要点をまとめると以下のようになります。
- 自益信託(委託者=受益者):主に自身の認知症対策など財産管理が目的。贈与税はかからない。
- 他益信託(委託者≠受益者):障がいのある子など、特定の誰かに利益を渡すのが目的。原則として贈与税がかかる。
- 受益者連続信託:自益と他益を組み合わせ、数世代にわたる柔軟な資産承継を実現できる。
どちらの信託が最適かは、ご家族がどのような未来を望むのか、その目的や想いによって全く異なります。安易な自己判断は、かえってご家族を混乱させ、思わぬ不利益を招くことにもなりかねません。
大切なご家族と財産を守るため、そしてご自身の想いを未来へと確実に繋ぐために、ぜひ一度、私たち専門家にご相談ください。名古屋高畑駅前司法書士事務所では、皆様の状況をじっくりとお伺いし、最適な信託設計をご提案いたします。まずは無料相談から、お気軽にお声がけいただければ幸いです
