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後見制度の問題点と家族信託のメリット
- 法定後見制度とは
- 任意後見制度とは
- 後見制度の問題点と家族信託のメリット
1.法定後見制度とは
法定後見制度とは、認知症などにより判断能力がなくなった人に対し、本人の権利を法的に支援し、保護するための制度です。本人のために後見人が選任され、判断能力がなくなった本人に代わって財産の管理をおこないます。既に判断能力がなくなってしまった後に利用できる制度です。
この制度は、家庭裁判所に後見人選任の申立てをし、家庭裁判所が後見人を選任します。申立て時にこちらから後見人の候補者として親族をあげることは可能ですが、実際に誰を選任するかは家庭裁判所の判断であり、司法書士や弁護士などの専門家が選任されることが多いというのが現状です。
後見人として司法書士や弁護士などの専門家が選任されると毎月の報酬が発生します。後見人の報酬の相場は、保有資産額などにもよりますが月3~6万円位といわれています。
なお、一旦後見人が選任されると本人が亡くなるまで制度の使用をやめることができません。
2.任意後見制度とは
任意後見制度とは、家庭裁判所に後見人を選任してもらうのではなく、本人が判断能力を有しているうちに、あらかじめ後見人を決めておく制度です。
本人と将来後見人になってもらいたい人とでおこなう契約です。この契約は公正証書でしなければなりません。その後、認知症などにより本人の判断能力がなくなったときに家庭裁判所に申立てるとはじめて効力が発生します。効力が発生すると家庭裁判所より後見監督人が選任されます。後見監督人とは後見人を監督する者で、弁護士や司法書士などの専門家が就任します。後見監督人が就任すると報酬が発生し、月1~3万円位が相場といわれています。
3.後見制度の問題点と家族信託のメリット
後見制度は、本人(成年被後見人)を保護して支援する制度であり、本人の財産を保護することを前提としています。あくまで本人保護のためであり、その家族の保護のためではありません。
後見制度では、株式や不動産の投資など積極的な資産運用をすることはできません。投資は財産が減るリスクがあるからです。
生前贈与や家族を受取人とした生命保険の加入など相続税対策もすることができません。これは本人のためではなく家族のための節税だからです。
本人の所有する不動産を売却する行為も原則できません。これは不動産そのものより現金の方が流出する危険性が高いからです。例外的に、施設に入所する必要が生じたが、不動産を売却しなければ施設の入所費用が用意できないような特別の事情がある場合にだけ不動産の売却が可能となります。不動産を売却しなくても通常通り生活が可能であれば売却することはできないのです。
このように後見人は本人の代理人とはいえ、何でもおこなえるわけではないのです。それがたとえ判断能力がなくなる前の本人の意思だったとしてもです。これらがよく耳にする後見制度の不満点です。
次に後見制度の問題点として費用面があげられます。
後見制度は申立て時や任後見契約時にかかる初期費用はそれほどでもありません。相場では司法書士等の専門家に依頼したとしても特別な事情がない限り10万円代ほどではないでしょうか。しかし、後見人に司法書士や弁護士など専門家が選任された場合、報酬がかかり続けます。上述のように報酬相場は月3~6万円です。一旦選任されると本人が亡くなるまでやめられないため長く続くと総額費用はかなり高額となってしまいます。任意後見であったとしても、上述のように後見監督人の報酬がかかり相場は月1~3万円ですのでこれも長く続くと総額費用はかなり高額になるおそれがあります。
上記2点のデメリットを避けられるのが家族信託です。
家族信託は財産の管理を他人に任せるという点では後見制度と似ていますが、後見制度に比べて柔軟に対応できます。信託契約を結ぶ際にあらかじめ決めておけば積極的な資産運用・相続税対策や不動産の売却が可能となります。
たしかに家族信託は設計時の初期費用が後見制度と比べると高額になります。しかし、家族信託は一旦開始すればその後に費用がかかることはあまりありません。ここが後見制度と異なる点です。長い目でみれば家族信託の方が費用を抑えられることも多いのです。
最後に注意点です。
上述のように家族信託は非常に有用な制度です。しかし、家族信託の契約を結べるのは判断能力があるうちだけです。認知症が発症したからといって即判断能力がなくなるわけではありませんが、一旦認知症が発症すれば進行ははやくあっという間に判断能力はなくなってしまうものです。判断能力がなくなってしまえば手遅れです。元気なうちに対策を検討すれば選択の幅が広がります。認知症対策の検討はなるべくはやくはじめるようにしましょう。
※ここには分量の関係から記載できませんでしたが、後見制度には家族信託にないメリットもあります。ただ当事務所の最近の相談者様の主な相談内容を精査して記事を作成させていただいたためこのような表現となりました。当然、家族信託ではなく後見制度の方がいい事案もあります。そのような場合、当事務所では後見制度を提案させていただいています。
当事務所では家族信託に積極的に取り組んでいます。家族信託に関連してご希望やお悩みがありましたら、お気軽にご相談下さい。